現在のバイクの始動方法はセルスタートが当たり前になっていますが、かつてはキックスタートのバイクが主流でした。近年、キックスタートのバイクは減少傾向にありますが、「キックだから良いんだ」という根強いファンも少なくありません。今回は、キックスタートバイクの仕組みや魅力について解説するとともに、代表的なキックスタートバイクをご紹介していきます。
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キックスタートバイクの仕組み
バイクのエンジンを動かすためには、きっかけとなる動力が必要です。バッテリーの電気の力でセルモーターを回転させ、その動力でエンジンを始動させる「セルスタート」に対し、ライダー自身の蹴る力を使ってエンジンを始動させるのが「キックスタート」です。通常、キックスタートバイクは、エンジンの横に付いているキックペダルを踏み下ろすことでエンジンを始動させます。
キックスタートバイクの現状
かつてのバイクは、キックスタートが主流でした。その後、セルスタートのバイクが登場しますが、当時はセルモーターやバッテリーが大型で重かったため、小型・軽量が求められるバイクにはそれほど普及しませんでした。また、バイクは車に比べて排気量が少ないため、キックスタートでも十分に始動させることができました。
しかし、時代とともにバイクの大排気量化や高出力化が進み、キックスタートでは始動させるのが難しいモデルが増えていきます。技術革新によってセルモーターやバッテリーの小型化・軽量化が進んだこともあり、徐々にセルスタートのバイクが一般的になっていきました。
とはいえ、キックスタートに魅力を感じるライダーは意外と多く、現在でもキックスタートを採用する例はあります。セルが無く、キックスタートだけのバイクはYAMAHAのSR400や一部のオフロードバイクくらいですが、セルスタートとキックスタートの両方を備えたバイクは一定数存在します。
キックスタートバイクのメリット・魅力
キックスタートバイクのメリットとしてよく言われるのが以下の2点です。
バッテリーに負担がかからない
セルスタートのバイクは始動時にバッテリーの電気を使いますが、キックスタートのバイクは始動時に電気を必要としません。そのため、バッテリーにも負担がかからず、バッテリーあがりを抑制することができます。また、バッテリーがあがってしまったときでも、キックスタートのバイクは人力でエンジンを始動できるため、いざというときに助かります。
「儀式」としての魅力がある
セルスタートのバイクはボタンひとつでエンジンがかかりますが、キックスタートのバイクは始動させるたびにキックペダルを出し、思い切り踏み下ろしてエンジンをかけます。傍から見たら、明らかに非効率ですが、そのアナログさに惹かれる人は少なくありません。YAMAHAの代表的なキックスタートバイクであるSR400のフレーズを借りれば、「キックスタートはライダーがSRと対峙する、いわば目覚めの儀式」です。キックスタートのバイクには、自分の足で眠っている愛車を「起こしてやる」という儀式的な魅力があるのです。
また、キックスタートにはコツがあり、慣れるまではなかなかエンジンがかからないことがありますし、寒い時期もやはりエンジンがかかりにくくなります。しかし、何度も繰り返しているうちに愛車のクセが分かってきて、徐々に上達していきます。このような「意思疎通」を重ねることで、愛車との一体感を高めていくのもキックスタートバイクならではでしょう。
キックスタートバイクのデメリット
キックスタートバイクには以下のようなデメリットがあることも認識しておきましょう。
始動に手間がかかる
キックスタートのバイクは、セルスタートのバイクに比べると始動に手間がかかります。そのため、面倒くさいと感じる人もいますし、エンストしてしまったときなどは焦ります。
スムーズにエンジンがかからないことがある
上述のとおり、キックスタートには踏み込むタイミングや力加減などのコツがあります。そのため、慣れていないうちや、バイクのコンディションが悪いときなどは、スムーズにエンジンがかかりません。結構な力を入れて右足を踏み下ろすため、夏場の炎天下で「何回キックしてもエンジンがかからない・・・」という状況になると、なかなかつらいものがあります。
ケッチン(キックバック)のリスクがある
始動時にキックペダルを踏み下ろす力が不足していたりすると、キックスタートに失敗するだけでなく、キックペダルが勢いよく逆方向に跳ね上がってくることがあります。いわゆる「ケッチン」や「キックバック」と呼ばれる現象です。ケッチンが起きると、跳ね上がってきたキックペダルによってスネなどを強打して悶絶するリスクもあります。
キックスタートバイクの始動方法
一般的なキックスタートバイクの始動方法をご説明します。
- ①まず、エンジンの右側にあるキックペダルを出します。
- ②キーはOFFの状態で、右足でキックペダルをゆっくりと踏み下ろしていきます。
- ③踏み下ろしていくと途中で固くなり、それ以上踏み下ろせない箇所が見つかるので、そこでデコンプレバー(※)を引きます。
※デコンプレバーとは、キックペダルを踏み下ろす際に抵抗になる圧縮空気を抜くためのレバーのこと。デコンプレバーを引くことで、シリンダー内の圧が抜けて始動しやすくなる。 - ④デコンプレバーを引いた状態でキックペダルを少し踏み下ろし、ピストンを上死点(エンジン内でピストンが最上端にある位置)まで持っていきます。
- ⑤デコンプレバーを離し、キーをONにして勢いよくキックペダルを踏み下ろすことでエンジンがかかります。
代表的なキックスタートバイク
YAMAHA「SR400」
セルを持たないキックスタートオンリーのバイクとして有名なのがYAMAHAの「SR400」で、キックスタートバイクの代名詞とも言える名車です。1978年のデビュー以来、高い人気を誇ってきたロングセラーモデルですが、2021年3月15日に発売された「SR400 Final Edition」をもって国内向けモデルの生産が終了となり、多くのファンから惜しむ声が寄せられました。
KAWASAKI「W650」
「ダブロク」の愛称で親しまれたKAWASAKIの名車が「W650」です。セルとキックを併用するバイクですが、そのレトロな佇まいにはキックスタートが似合います。675ccの並列2気筒SOHCエンジンは、パワーを追い求めるのではなく、味わい深さを追求。ゆったりと走ることに主眼を置いたノスタルジックなバイクです。
HONDA「CB400SS」
HONDAがSR400の対抗馬として開発したキックスタートバイクが「CB400SS」です。初期モデルはキックスタートオンリーでしたが、2003年のマイナーチェンジによってセルも搭載され、セル・キックの併用式になりました。空冷4ストロークOHC4バルブ単気筒エンジンは、低速~高速域まで穏やかな鼓動を感じられ、街乗りだけでなくワインディングにおいても心地良い走りを実感できます。
SUZUKI「グラストラッカー」
90年代後半の「トラッカーブーム」を牽引したロングセラーバイクがSUZUKIの「グラストラッカー」です。空冷4サイクル4バルブSOHC単気筒エンジンを搭載し、セルだけでなくキックスタートも採用。小ぶりなタンクとワイドなハンドル、フラットなシートが特徴で、キックにこだわりのあるライダーを中心に大きな支持を集めました。
まとめ
キックスタートバイクは、現行モデルでは車種が限定されてしまいますが、中古であれば選択肢も広がってきます。また、車種によっては、セルスタートのバイクにキックスタートを後付けできる「キックスターターキット」も販売されており、特にハーレーでは人気のカスタムになっています。アナログな魅力のあるキックスタートバイクに興味がある方は、検討してみてはいかがでしょうか。
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